脳内さつじん

この21年間、脳内で何人ころしたことか。脳内であれば、多少の無理も都合でなんとかできるし、1回では物足りない場合、様々な方法で繰り返しころすことができる。手を汚さないからもちろん捕まることもないし、道具はいらないから無料でできる。
最初に人をころしたのは、小学3年生の秋のことだった。私はいじめられていた。筆箱がいつのまにか虫かごに入っていたり、いつのまにか教科書に身に覚えのない落書きがされていたり、レベルとしては低いものばかりではあったが、それでも当時の私を苦しめるのには充分すぎるくらいだった。ころしのきっかけとなる出来事は、いじめがはじまって何週目かの朝に起こった。登校したら、液体のりが机と椅子に渦を巻くように塗られていたのだった。液体のりの渦を眺めながら、わたしは今までのことを考えた。どうして私はこんな嫌がらせを受けているのか、いくら考えても分からなかった。犯人はなんとなく目星がついていた。渦の中から、殺意が顔を出した。ころしてやろうっと、と、かなりカジュアルに思った。はじめは首を絞めて・・・と考えているうちに、楽しんでいる自分に気づいた。一瞬、つらいことを忘れていた。ふと我に返るともう先生が教室に来る時間になっていた。先生は異常な教室の空気に気づいて、すぐに学級会が開かれた。
犯人は、想像したとおりだった。いつも徒競走で1位のYだった。Yのお父さんもお母さんも教師なのに、テストの成績でいつもわたしに負けているのが悔しかったらしい。運動では勝っているんだから、勉強くらい勝たせてくれたっていいじゃないかと思った。一応形式だけの謝罪はしてもらったが、そんなものは欲しくなかった。Yは誤りながら泣いていたが、私は自分でもびっくりするほど何の感情も沸かなかった。頭を下げるYを見下ろしながら、Yが頭を上げるのと同時に、植物係が使っているスコップを思い切り振り下ろしたら、どんな声をあげて苦しむだろうと思った。想像したらおかしくて、ちょっと笑ってしまって、先生に注意された。
結局、液体のりは自分で片付けなければいけなかった。先生も理不尽だ。いじめっ子に言っておきたいが、液体のりを使った嫌がらせを考えているなら、それだけはやめてほしい。ティッシュだけじゃ全然拭き取れないから、めちゃくちゃ面倒くさいぞ。ちなみにYとは中学まで一緒だったが、そこそこの高校に推薦入学して、そこそこの東京の大学に進学したらしい。